コラム

ブラウンズが全体1位指名権をQBに使うべきではない5つの理由

2018年02月24日(土) 09:23


クリーブランド・ブラウンズ【AP Photo/Matt Dunham】

間もなく恒例のスカウティングコンバインが始まり、NFLはドラフトが大きな話題となる。今年の1巡目全体1位指名権を持つのは2017年シーズンを0勝16敗で終えたブラウンズだ。そして、ブラウンズはこの指名権でクオーターバック(QB)を指名するものと予想される。

今年のドラフトはQBに人材が豊富だ。サム・ダーノルド(USC)、ジョシュ・ローゼン(UCLA)、ベイカー・メイフィールド(オクラホマ大学)、ジョシュ・アレン(ワイオミング大学)、ラマー・ジャクソン(ルイビル大学)らが1巡で指名される可能性がある。イーライ・マニング、ベン・ロスリスバーガー、フィリップ・リバースらを輩出した2004年シーズンに匹敵するほどの人材の宝庫だとも言われる。

1999年のリーグ復帰以来、フランチャイズQBに恵まれず、2002年を最後にプレーオフから遠ざかっているブラウンズがこのチャンスを逃すはずはなく、QB指名はほぼ決定事項のシナリオだと言って過言ではない。ただし、それが本当にブラウンズのためになるのかは疑問だ。その理由は次の通りである。

1)あまりにも多い1巡指名QBの失敗例
1999年以降、ブラウンズがドラフト1巡で指名したQBは4人(ティム・カウチ、ブレイディ・クィン、ブランドン・ウィーデン、ジョニー・マンジール)いるものの、いずれもスターターQBに定着することはなかった。カウチのように開幕から先発を任せたケースもあれば、ウィーデンやマンジールのように育成期間を経て実戦投入したバターンもある。いずれも成功せず、貴重な1巡指名権を無駄にしてきた。

2)サポーティングキャストの不足
新人QBを育てていくには他のポジションの助けが必要だ。有能なレシーバーはQBのパス能力を伸ばし、ランニングバック(RB)は負担を軽減する。オフェンスライン(OL)の安定はサックを防ぐことにつながり、新人QBにパスを投げる環境を整えることができる。ディフェンスですら重要だ。ディフェンスが強力であれば多少QBがミスをしようと試合が崩れることはない。

ところが今のブラウンズはOLこそNFLトップクラスの人材が揃うが、スキルポジションが弱く、ディフェンスもまだ発展途上だ。QBの育成をサポートするメンバーに乏しいのである。

3)ジミー・ハズラムオーナーは気が短い
ハズラムオーナーはスティーラーズのマイノリティオーナーだった経験からかチームが負け続けることに慣れていない。したがって、実績をあげられないヘッドコーチ(HC)はすぐに替える傾向がある。彼がチームを買収した2012年シーズン途中から実に4人のHCが交代しており、3シーズン目を任されるのは現在のヒュー・ジャクソンが初めてだ。

ジャクソンはシーズン全敗の成績にもかかわらず続投を許された。だからと言って2018年シーズンも不振でいいということにはならない。成績を度外視して新人QBを育てるという悠長なことを言っていられないかもしれないのだ。

4)QB育成のための長期プログラムが組めない
2018年がジャクソンの進退をかけたシーズンになるとすれば、ドラフトで指名したQBを育成するための長期プログラムを組めない可能性が出てくる。ジャクソンはパスオフェンスの構築に実績のあるHCだが、それには時間がかかる。もしジャクソンが今季限りで解雇され、新たなHCが招聘(しょうへい)されればオフェンスシステムが変わる可能性があり、QBは2年間で2通りのオフェンスシステムを習得しなければならない。これは若いQBに負担になるばかりでなく、成長を妨げる要因になりかねない。

5)ベテランQBが獲得可能
このオフにはフリーエージェント(FA)やトレードで獲得可能なベテランQBが多い。これを狙うのは有効だ。レッドスキンズからFAとなることが濃厚なカーク・カズンズ、バイキングスとの契約が切れるケイス・キーナムは考慮していい人材だ。トレードも視野に入れるならばスーパーボウルMVPのニック・フォールズ、バイキングスのサム・ブラッドフォードも可能性ありだ。

FAとなっている選手が移籍したいと思うほどブラウンズに魅力があるかは大きな疑問ではあるが、先発の座を求めているベテランQBにはその望みをかなえてやれる環境はある。

もうひとつ、ベテランQBがブラウンズに合致する理由がある。それはジャクソンの構築するパスオフェンスはポケットパサーほど効果を発揮しやすいということだ。ベンガルズでアンディ・ダルトン、レイブンズでジョー・フラッコを育成したが、いずれもポケットの中でレシーバーのパスコースを読むことで強力なパスオフェンスを展開した。

現在のカレッジのQBはポケットパサータイプが少ない。その意味では、カズンズやキーナムはうってつけの人材なのだ。

1巡目1位指名権を持っていればそれをQBに行使したくなるのは無理もない。今年のようにQBのタレントに富んでいるドラフトならなおさらだ。しかし、ブラウンズはQB以外にも補強するべきポジションは多い。1位指名権をトレードダウンして指名権を増やし、ベテランQBを獲得してチームの底上げを図り、2年ないし3年後に改めてドラフトでQBを指名するという長期プランも考慮に値するだろう。

昨今のNFLではイーグルスのカーソン・ウェンツ、タイタンズのマーカス・マリオタ、バッカニアーズのジェイミス・ウィンストン、ラムズのジャレッド・ゴフのように1巡指名QBが世代交代の波を押し上げる傾向にある。ブラウンズも当然その波に乗りたいだろう。しかし、あえてそれを避けて1位指名権をほかのポジションに使うという選択肢もある。これまでの失敗例に学び、有効な活用をするべきだ。

いけざわ・ひろし

生沢 浩
1965年 北海道生まれ
ジャパンタイムズ運動部部長。上智大学でフットボールのプレイ経験がある。『アメリカンフットボールマガジン』、『タッチダウンPro』などに寄稿。NHK衛星放送および日本テレビ系CSチャンネルG+のNFL解説者。著書に『よくわかるアメリカンフットボール』(実業之日本社刊)、訳書に『NFLに学べ フットボール強化書』(ベースボールマガジン社刊)がある。日本人初のPro Football Writers Association of America会員。