コラム

ドラフト有力候補紹介:その2 - RBセイクワン・バークリー(ペンシルベニア州立大学)

2018年04月15日(日) 18:14


ペンシルベニア州立大学のセイクワン・バークリー【AP Photo/Darron Cummings】

あくまで筆者個人の感想だが、ハイライト映像を見てここまで引き込まれた選手は実に久しぶりだ。ハイライトなのだから数々のプレーの中から成功したものばかりを集めているのは当然だが、カットバックといい突進力といい、これぞランニングバック(RB)の理想と思わせるパフォーマンスのいかに多いことか。

ペンシルベニア州立大学のRBセイクワン・バークリーのことである。重心が低い割に鋭いカットバックでディフェンダーをかわすプレーがあるかと思うと、183センチ、106キロの体格を武器にしたフィジカルな突進も見せる。これも筆者の印象に過ぎないが、バリー・サンダース(元ライオンズ、殿堂入り)の俊敏性とエゼキエル・エリオット(カウボーイズ)のパワーを併せ持ったバックなのだ。

今年のドラフトでもトップ5で指名される可能性が高いとされる。1巡トップ3位までの指名はブラウンズ、ジャイアンツ、ジェッツで、それぞれクオーターバック(QB)補強が急務とされるが、その方針をあえて曲げてまでも獲得する価値がある。もっとも、ブラウンズは4位指名も持っているから1位指名でQBを指名し、4位指名でバークリーを獲得するシナリオを描いているかもしれない。いずれにせよ、1巡の早い順番での指名は確実だろう。

つい4、5年前にはRBがドラフト1巡で指名されない時期があった。2011年から2014年の間に1巡指名されたRBはトレント・リチャードソン(オーバーン大学、2012年1巡全体の3番目でブラウンズへ)だけだ。この頃すでにNFLではパス重視、高得点志向のオフェンスの流れが出来上がっており、ランでゴリゴリとボールを進める従来型のRBの需要は少なくなっていた。

その流れを変えたのがエリオットだ。2016年に1巡全体4位で指名されると同期入団のダック・プレスコットとともにカウボーイズオフェンスの中心選手となり、NFLにおけるRBの存在を再評価させることに成功したのだ。

昨年はレオナード・フォーネット(ルイジアナ州立大学→ジャガーズ)とクリスチャン・マキャフリー(スタンフォード大学→パンサーズ)が1巡指名を受けた。フォーネットは新人ながら1,000ヤードラッシュを達成し、ジャガーズのオフェンスの柱となっている。

RBへの再評価が高まる一方で、NFLのオフェンスの中でこのポジションの役割が変化しているのも事実だ。以前よりパスキャッチ力が求められるようになり、複数のRBによるローテーション起用が当たり前となった。

これをバークリーに当てはめた場合、彼がNFLでカレッジ時代並みの活躍ができるか否かが重要なカギとなる。バークリーはパスキャッチもうまく、その点は問題がないだろう。しかし、ペン州立大学時代はほとんど一人でボールキャリーを担っていたから、他の選手と出場機会を分け合うシステムでどのようにリズムをつかむかは今後の課題だ。

また、彼のプレースタイルがNFLでは通用しないと評する現地専門家もいる。彼らの根拠となるのはバークリーが自身の運動能力に頼ったプレーをするという点だ。NFLでは選手のレベルがカレッジとは比較にならないほど高くなる。本能的にカットバックを切って走路を切りひらくタイプのバークリーでは、カレッジでは通用してもよりフィジカルなNFLのディフェンダーが相手では少ないゲインで抑えられてしまうのではないかというのだ。

確かにNFLのディフェンスはカレッジに比べてシステマティックで個々の選手の能力も高い。身体能力にだけ頼るプレースタイルでは太刀打ちできない可能性はある。

そこはバークリーも、彼を獲得しようと計画しているチームも十分承知の上だろう。要するに課題を承知の上でそれをいかに凌駕するかである。これにはバークリー自身の能力だけでなく、チームの育成プログラムも関係してくる。ブロッカーとなるOLの能力やオフェンスのシステムも含めたうえで総合的に判断されるべき事項だ。

筆者の見立てではバークリーはエリオットと同等の身体能力を持つ。ただし、それが正しいとしても彼がその能力を発揮できる環境がなければ宝の持ち腐れに終わる。バークリーは条件さえ整えばNFLを代表するRBになるポテンシャルを持った選手だ。彼とNFLにとってベストなマッチングがドラフトで誕生することを祈りたい。

いけざわ・ひろし

生沢 浩
1965年 北海道生まれ
ジャパンタイムズ運動部部長。上智大学でフットボールのプレイ経験がある。『アメリカンフットボールマガジン』、『タッチダウンPro』などに寄稿。NHK衛星放送および日本テレビ系CSチャンネルG+のNFL解説者。著書に『よくわかるアメリカンフットボール』(実業之日本社刊)、訳書に『NFLに学べ フットボール強化書』(ベースボールマガジン社刊)がある。日本人初のPro Football Writers Association of America会員。