コラム

パンサーズオフェンスの救世主となるか、ベテランOCノーブ・ターナーの挑戦

2018年07月15日(日) 12:13


カロライナ・パンサーズのキャム・ニュートン【AP Photo/Butch Dill】

早くもルーキーキャンプの始まる時期となった。これが終われば本格的なキャンプシーズン突入で、2018年シーズンへの準備が加速化する。

昨年はビルズやラムズなど久しぶりにプレーオフの舞台に返り咲いたチームがあり、NFLの戦力分布図に変化の兆しが見えた。その傾向は今年も続くのか、それともプレーオフ常連組が再び勢力を取り戻すのか。

パンサーズは昨年11勝5敗の好成績ながら2年連続でNFC南地区の優勝を逃し、プレーオフではディビジョンライバルのセインツに敗れた。2015年のスーパーボウルシーズンから残る主力メンバーは多く、戦力は整っている。

しかし、勝ち星の陰に隠れて目立たないが、エースクオーターバック(QB)キャム・ニュートンの不調はパンサーズが抱える課題のひとつだ。昨季のオフェンスはリーグ12位とまずまずだったが、パッシングは28位と振るわなかった。悲願のスーパーボウル優勝を達成するにはニュートンのパスオフェンス向上は不可欠だ。

そこでパンサーズは解雇した前攻撃コーディネーターのマイク・シュラに代わる人材としてノーブ・ターナーを招へいした。ターナーはヘッドコーチ(HC)経験15年、攻撃コーディネーター歴11年のベテランだ。1991年から1993年にはカウボーイズの攻撃コーディネーターとしてスーパーボウル連覇に大きく貢献した。

HCとしてはチャージャーズ、レイダース、レッドスキンズで指揮をとったものの、通算成績は114勝122敗1分と負け越している。一方で、攻撃コーディネーターでは得点力の高いオフェンスを構築することに定評がある。

ロン・リベラHCはターナーがチャージャーズのHCだったころに守備コーディネーターとして仕えた経緯があり、その縁もあって今回のパンサーズ参入となった。

現在のNFLではスプレッド隊形の導入により、フィールドを広く使うパッシングアタックが威力を持つ傾向にある。QBはパッシング多用のプレーコールの中でリズムを作り、ピンポイントのコントロールを維持することが要求される。

これはニュートンが得意とするプレースタイルではない。彼は並外れた身体能力を生かして縦横無尽に走り、その過程でパッシングすることで自らを「乗せて」行く。型にはめるよりニュートンのやりやすいスタイルを認めたほうが本領を発揮しやすい。

とはいえ、QBが好き勝手にやっていたのではオフェンスは機能しない。そこにターナーがどういった妥協案を見いだすか。

ターナーはプレーアクションパスを好む傾向があり、これはカウボーイズの攻撃コーディネーター時代からほとんど変わらない。ターナーが好成績を残したチームは必ずと言っていいほどリーグトップクラスのランニングバック(RB)がいた。エミット・スミスやラデイニアン・トムリンソンがその例だ。こうしたRBがいたからこそトロイ・エイクマンやフィリップ・リバースはプレーアクションからのビッグプレーを連発できたのだ。

ニュートンは自らも走る能力を持つから、エイクマンやリバースとはタイプが異なる。これをターナーがどう生かすかは注目に値する。

ニュートンをポケットパサーとして使うならば彼の能力を半減することになる。やはり彼の脚力を生かしたプレーアクションパスが武器になるだろう。

パンサーズにはクリスチャン・マキャフリーという有能なRBもいる。ターナーが得意なスタイルを導入する地盤は固まっているといえる。そこにニュートンの脚を絡めたパッシングが構築されればパンサーズはこれまでとは違った次元のオフェンスを展開する可能性もある。

ターナーはバイキングスの攻撃コーディネーターだった2年前、シーズン中に突如辞任して周囲を驚かせた。その理由は明確にはなっていないが、職場放棄とも受けとれるこの行為は批判も浴びた。今回はそれ以来の現場復帰となる。

パンサーズはターナーの得意なスキームを生かす人材の揃った稀有なチームだ。そこでニュートンの能力を引き出すことができるか。65歳のターナーにとってパンサーズはコーチ人生最後の挑戦となるかもしれない。ニュートンの確変を引き出すことに成功すればそれは同時に自身の花道を飾ることになるだろう。

いけざわ・ひろし

生沢 浩
1965年 北海道生まれ
ジャパンタイムズ運動部部長。上智大学でフットボールのプレイ経験がある。『アメリカンフットボールマガジン』、『タッチダウンPro』などに寄稿。NHK衛星放送および日本テレビ系CSチャンネルG+のNFL解説者。著書に『よくわかるアメリカンフットボール』(実業之日本社刊)、訳書に『NFLに学べ フットボール強化書』(ベースボールマガジン社刊)がある。日本人初のPro Football Writers Association of America会員。