コラム

新生バイキングスオフェンスが抱える不安

2018年09月02日(日) 17:44

ミネソタ・バイキングスのカーク・カズンズ【AP Photo/Jack Dempsey】

昨季NFCチャンピオンシップゲームにまで進みながら、あと一歩で地元USバンク・スタジアムを舞台に行われたスーパーボウルに及ばなかったバイキングスはこのオフに3人のクオーターバック(QB)、ケイス・キーナム、テディ・ブリッジウォーター、サム・ブラッドフォードをすべて放出し、レッドスキンズからカーク・カズンズを獲得した。

オフェンスの中心であるQBの総入れ替えはスーパーボウルを現実的に目指すチームとしては異例の人事で、デメリットの方が多いのが一般的だ。ただし、首脳陣の考えでは昨年活躍したキーナムと新スターターのカズンズはともに強肩を武器としたポケットパサーで、プレースタイルは大きく変わらないと判断した。

さらにステフォン・ディッグス、アダム・シーレン、カイル・ルドルフといったワイドレシーバー(WR)やタイトエンド(TE)陣はNFLトップクラスであり、ランニングバック(RB)デビン・クックも故障が癒えて完全復活すると見込まれており、QB交代が与えるマイナス要因は限定的だとも予測された。

ところが、主力選手が前半に試合出場したプレシーズン第3週のシーホークス戦では不安材料がいくつか見えた。

まずはオフェンスライン(OL)のパスプロテクションだ。シーホークスのラインバッカー(LB)陣が執拗にブリッツを繰り返したこともあり、NFLでもトップクラスと評されるバイキングスのOLがことごとくディフェンスのペネトレーションを許した。カズンズがQBサックされたり、ボールを投げ捨てて難を避けたりしなければならないシーンがいくつか見られ、攻撃のリズムが寸断された。

カズンズとホットラインを形成するはずのディッグスとの呼吸も今ひとつだった。QBとの距離が近いクロッシングルートは問題ないのだが、アウトサイドのフェイドルートでは明らかにオーバースローでワイドオープンのディッグスがパスキャッチできない場面があった。

最大の問題はキッカー(K)だ。今年のドラフトで5巡目指名されたダニエル・カールソンが2度あった42ヤードのフィールドゴールアテンプトをいずれも左側に外して得点機を逸している。バイキングスはこの試合の直前に昨年までの正Kカイル・フォーバースを解雇しており、カールソンにとっては先発ポジションを確保した最初の試合で大きなミスを犯した結果となった。

カールソンはオーバーン大学時代には成功率の高いキックと飛距離で活躍し、オールカンファレンスにも選ばれた逸材だ。5巡目の指名には一部のファンから「もったいない」との批判を受けたが、長期にわたって安定したKを確保したいチームにとってはドラフトで獲得して育成したいという意図もあった。

プレシーズン初戦となったジャガーズ戦では57ヤードを含む2回のフィールドゴールをいずれも成功させている。2戦目はフィールドゴールの機会がなかったものの、この時の活躍が正Kの座を射止める大きなきっかけになったのだろう。

42ヤードのフィールドゴールはNFLならば成功させなければならない距離だ。しかも、いずれもカズンズのパスが好調といえず、ようやく到達したゴール前のチャンスだっただけにフィールドゴール失敗のダメージはプレシーズンゲームとはいえ小さくなかった。

2度の失敗が新人カールソンに与える影響も懸念される。自信喪失はKにとって最大の敵だからだ。

プレシーズン最終戦は主力選手の大半が休み、オフェンス内のケミストリーはレギュラーシーズン中に形成していかなければならない。昨年NFCノースで地区優勝をしたことでスケジュールはより厳しくなる。そうした中で新たなオフェンスを構築するという難しい課題にバイキングスは直面することになる。

いけざわ・ひろし

生沢 浩
1965年 北海道生まれ
ジャパンタイムズ運動部部長。上智大学でフットボールのプレイ経験がある。『アメリカンフットボールマガジン』、『タッチダウンPro』などに寄稿。NHK衛星放送および日本テレビ系CSチャンネルG+のNFL解説者。著書に『よくわかるアメリカンフットボール』(実業之日本社刊)、訳書に『NFLに学べ フットボール強化書』(ベースボールマガジン社刊)がある。日本人初のPro Football Writers Association of America会員。