コラム

調整途上でも際立つラムズの戦力充実ぶり

2018年09月14日(金) 07:38

ロサンゼルス・ラムズのトッド・ガーリー【AP Photo/Ben Margot】

2018年シーズンが開幕を迎えた。どのチームもまだチームは調整段階にあり、開幕週の結果や個々の選手のパフォーマンスがシーズンを占うものには必ずしもならない。それでも、オフシーズンの補強の成果や新たな戦術の導入、主力選手の活躍の有無など今シーズンの「あるべき姿」が垣間見えるチームもある。

ダブルヘッダーで行われたマンデーナイトゲームの2試合目でレイダースを破ったラムズもそんなチームのひとつだ。

ラムズは昨季、ヘッドコーチ(HC)にショーン・マクベイを招へいした新体制で臨み、ロサンゼルス移転2年目にして11勝5敗の好成績で2003年以来となる地区優勝を果たした。2016年ドラフト全体1位指名のクオーターバック(QB)ジャレッド・ゴフは順調に成長を重ね、リーグ最高得点をたたき出すオフェンスの司令塔の役割を果たした。

昨年はオフェンス部門でランニングバック(RB)トッド・ガーリー、ディフェンス部門でディフェンシブエンド(DE)アーロン・ドナルドがプレーヤー・オブ・ザ・イヤーとコーチ・オブ・ザ・イヤーを輩出したことからもその戦力の充実ぶりがうかがえる。

そしてこのオフには共にオールプロのコーナーバック(CB)マーカス・ピーターズとアキブ・タリブやディフェンシブタックル(DT)ダムコング・スーを獲得し、ウェイド・フィリップス率いるディフェンスをさらに強化した。両CBにスター選手を配置した補強の意味は大きい。CBにマンカバーの名手を置くことでブリッツを含めたパスラッシュを強化することができる。これこそがフィリップスのデザインするディフェンスのもっとも重要な要素である。

パス守備向上を狙った補強はラムズがプレーオフで勝ち進むことを意識したものだ。NFCではバイキングスやセインツ、ファルコンズ、イーグルスといった強力なパスオフェンスを持つチームが存在し、プレーオフでラムズと対戦する可能性が高い。そこを見据えた補強はすなわちラムズがスーパーボウルに照準を合わせてきた証拠でもある。

では実際にその戦力はスーパーボウル出場に向けて整ってきたのか。

レイダース戦での前半はラムズにミスが多く、苦戦した印象があった。序盤はレイダースのRBマーショーン・リンチのランとタイトエンド(TE)ジャレッド・クックへのパスに苦しみ、ドナルドのパスラッシュもQBデレック・カーのクイックリリースの前に不発だった。前半のゴフの成績は10回の試投でわずか4回のパス成功。目立ったのはガーリーだけだった。

しかし、後半になるとガーリーのランを土台にしたプレーアクションパスが面白いように決まり、ディフェンスもカーからインターセプトを奪うようになる。最後はピーターズがインターセプトリターンタッチダウンを決めて、終わってみれば33対13の大差で勝利をものにした。

マクベイHCはゴフやガーリーをプレシーズンゲームに出場させずに温存させ、ドナルドは契約更新の交渉が難航したためにオフシーズンのプログラムを全休した。こうした試合勘の鈍さが前半に出てしまったが、それでも主力選手が要所で仕事をして勝ち星を確実に手に入れるところは地区王者の風格を感じさせるものだ。

スーやレフトタックル(LT)アンドリュー・ウィットワースといったベテランがリーダーシップを発揮する一方でゴフやガーリー、2年目のワイドレシーバー(WR)クーパー・カップなど若手も着実に成長している。ベテランと若手のコンビネーションが機能しているという点は2015年のブロンコスや昨年のイーグルスといった過去のスーパーボウルチャンピオンを彷彿とさせる。

時期尚早だが、ラムズもまたスーパーボウルに近いチームのひとつといっていいだろう。

いけざわ・ひろし

生沢 浩
1965年 北海道生まれ
ジャパンタイムズ運動部部長。上智大学でフットボールのプレイ経験がある。『アメリカンフットボールマガジン』、『タッチダウンPro』などに寄稿。NHK衛星放送および日本テレビ系CSチャンネルG+のNFL解説者。著書に『よくわかるアメリカンフットボール』(実業之日本社刊)、訳書に『NFLに学べ フットボール強化書』(ベースボールマガジン社刊)がある。日本人初のPro Football Writers Association of America会員。