コラム

8強出そろうディビジョナルラウンドの展望

2019年01月12日(土) 11:14

ニューオーリンズ・セインツとフィラデルフィア・イーグルス【AP Photo/Gerald Herbert】

プレーオフ開幕週となるワイルドカードラウンドは4試合中3試合が1タッチダウン差以内で決着する接戦で、コルツ、チャージャーズ、イーグルスがワイルドカード枠から勝ち進んだ。

第2週はいよいよカンファレンスのトップ2シードが登場するディビジョナルラウンドだ。レギュラーシーズン中に対戦があったのはイーグルス対セインツの試合のみで、いかに相手を研究して決戦に臨むかが重要となる。また、セインツやラムズ、チーフスなど高得点を誇るチームが多いのも今季のディビジョナルラウンドの特徴だ。果たしてこれらが本領を発揮するのか、それともディフェンスがオフェンスを凌駕(りょうが)するのか。

【カッコ内はプレーオフ戦を含めた戦績】

コルツ(11勝6敗)対チーフス(12勝4敗)
チーフスのクオーターバック(QB)パトリック・マホームズがプレーオフ初見参である。今季スターター1年目ながら50タッチダウンパスを成功させる活躍で、NFLトップのオフェンスを率いてきた。迫るパスラッシュをものともせず、時にはセオリー完全無視の無茶苦茶なパッシングフォームでボールを投げる。それが決まってしまうところにマホームズのビッグプレーメーカーとしての才能がある。

一方、コルツQBアンドリュー・ラックは対照的に堅実なポケットパサーだ。今年は早いリリースを心がけてサックを避け、ショートパスを中心にオフェンスをドライブする。過去数年間にわたって悩まされてきた肩も試合を追うごとに復調しているようだ。故障前に比べるとロングパスの精度はまだ完全には戻ってきていない印象だが、成功率の高いパスでそれを補う。

点取り合戦になると利があるチーフスだが、1試合平均405.5ヤードも許すディフェンスは弱点だ。コルツが付け入る隙があるとすればここだろう。マーロン・マックのランとラックのショートパスで時間をコントロールしながらロースコアゲームに持ち込めばコルツにも勝機はある。

カウボーイズ(11勝6敗)対ラムズ(13勝3敗)
ポストシーズンでの顔合わせは実に1985年シーズン以来とのことだ。対戦そのものは1年半ぶりである。ともにオフェンスのスキルポジションにタレントがそろい、ディフェンスが堅守なのが共通する。なかでもエゼキエル・エリオット(カウボーイズ)とトッド・ガーリー(ラムズ)のランニングバック(RB)対決は注目だ。

エリオットは今季と一昨年のリーディングラッシャーで、ガーリーは昨年の最優秀オフェンス選手。グラウンドゲームではエリオットに、パスを含めたスクリメージヤードではガーリーに軍配が上がるものの、ここにQBダック・プレスコット(カウボーイズ)、ジャレット・ゴフ(ラムズ)のパスが絡んでくるとさらに強力なオフェンスが構築される。そのリズムをいち早くつかんだ方が勝利するだろう。

カギを握るのはラムズのディフェンシブエンド(DE)アーロン・ドナルドだ。今季リーグトップの20.5サックを記録したパスラッシュはゲームを左右する要素となる。カウボーイズがエリオットのランとプレスコットのフットワークでかわすことができれば、ワイドレシーバー(WR)アマリ・クーパーへのパスを生かすことができる。逆にサックされてオフェンスドライブが寸断されるようだと序盤で点差が開く展開にもなりかねない。

チャージャーズ(13勝4敗)対ペイトリオッツ(11勝5敗)
チャージャーズのQBフィリップ・リバースにとってペイトリオッツはスーパーボウル出場を阻む壁だった。初めてのプレーオフ出場となった2006年シーズンはディビジョナルラウンドで、翌年はAFC決勝でペイトリオッツに敗れた。リバースがポストシーズンで2度も敗戦を味わったのはペイトリオッツだけである。3度目の正直での打破を期する気持ちは強い。

ただ、昨年来、ペイトリオッツはランディフェンスが弱点だ。強力なランゲームを展開するチームには例外なく苦戦している。キーマンはRBメルビン・ゴードンだ。ひざや足首に故障を抱えるとはいえ、コンスタントにランを出すことができれば有利な試合運びにつなげられるだろう。

ペイトリオッツはスタッツに関してこれといって傑出したものはない。それでも10年連続の地区優勝で第2シードを獲得したのはさすがだ。リードされても着実なドライブでタッチダウンを取り返すことのできるトム・ブレイディのクオーターバッキングがあるからこそなせる業か。今季は例年になくキッカー(K)スティーブン・ゴスタウスキーにキックミスが目立つ。この辺りも試合を左右するポイントになるかもしれない。

イーグルス(10勝7敗)対セインツ(13勝3敗)
イーグルスにとって“プレーオフ”はレギュラーシーズン第15週から始まっている。一つでも負けたらポストシーズンの望みが絶たれるという状況の中から連勝を続け、今に至るからだ。しかも、QBはカーソン・ウェンツではなくニック・フォールズである。常に緊張を強いられる中で勝ち進んできた勢いこそがイーグルスの強みと言える。

地力ではセインツが圧倒的に有利だが、バイウイークで試合勘が鈍るようなことがあれば、重圧の中で勝ち続けてきたイーグルスに主導権を奪われないとも限らない。

前回対戦は第11週でセインツが48対7で勝っている。41点差はスーパーボウル覇者としては史上最悪の敗戦だった。イーグルスがそのリベンジを果たすか、セインツがイーグルスの連覇の夢を砕いて9年ぶりのカンファレンス決勝進出となるか。いずれにせよ見どころ満載のリマッチだ。

いけざわ・ひろし

生沢 浩
1965年 北海道生まれ
ジャパンタイムズ運動部部長。上智大学でフットボールのプレイ経験がある。『アメリカンフットボールマガジン』、『タッチダウンPro』などに寄稿。NHK衛星放送および日本テレビ系CSチャンネルG+のNFL解説者。著書に『よくわかるアメリカンフットボール』(実業之日本社刊)、訳書に『NFLに学べ フットボール強化書』(ベースボールマガジン社刊)がある。日本人初のPro Football Writers Association of America会員。