コラム

今ミレニアムの全体1位指名を振り返る

2019年04月29日(月) 05:28

2019年NFLドラフト【AP Photo/Mark Humphrey】

テネシー州ナッシュビルで行われた今年のドラフトは今ミレニアム(2000年代)でちょうど20回目のものだった。

過去19回をポジション別にみるとクオーターバック(QB)が13名と最も多く指名されており、ディフェンシブエンド(DE)の4人がそれに続く。オフェンシブタックル(OT)が2人で、意外にもこの3つのポジションしか全体1位指名を受けていない。その前の20年ではこの3つに加えてランニングバック(RB)、ワイドレシーバー(WR)、ラインバッカー(LB)、ディフェンシブタックル(DT)とバリエーションに富んでいたのとは対照的だ。

今年を除く2000年代の全体1位指名選手のうち、実績で評価されるべきはやはりイーライ・マニング(2004年、ジャイアンツ)だろう。2回出場したスーパーボウルはいずれもペイトリオッツを破り、MVPに輝いている。スーパーボウル出場回数では兄ペイトン(4回)が勝るが優勝回数は同数でMVPは1回多い。ちなみに19人のうちスーパーボウル優勝を経験したのはマニングとデビッド・カー(2002年、テキサンズ)だけだ。ともに2011年のジャイアンツで、カーはマニングの控えだった。

カーは2002年に誕生したテキサンズの最初の指名選手だった。強肩を武器に新興チームを引っ張ったが、人材の整わないオフェンスライン(OL)のためにQBサックを多く浴びて潜在能力を存分に発揮することができなかった。2006年までテキサンズの先発QBを務めたが、皮肉にもテキサンズが初のプレーオフ進出をするのは彼が移籍した後だった。

キャム・ニュートン(2011年、パンサーズ)は5人いるハイズマントロフィー受賞者の1人。2015年にはリーグMVPに輝いたが、19人の中でこれはニュートンだけである。同年にスーパーボウルに出場するも、ペイトン・マニングのブロンコスに敗れた。

キャリア序盤は身体能力にあかせたプレースタイルに固執したが、3年目あたりからパスの精度が増し、単なるモバイルQBで終わらずに現在までNFLトップクラスのQBの1人として活躍している。

モバイル系QBと言えば2001年にファルコンズから指名を受けたマイケル・ビックを忘れることができない。抜群の運動能力で一躍スターとなったが、2007年に違法な闘犬にかかわっていた罪で逮捕されて収監。のちにNFL復帰を果たしたものの、全盛期の輝きを取り戻すことはなかった。選手としてのピーク時の「失われた時間」の代償はあまりにも大きかった。

そのほか、順調に一線で活躍した、もしくは現在もしている選手にはQBカーソン・パーマー(2003年、ベンガルズ)、DEマリオ・ウィリアムズ(2006年、テキサンズ)、OTジェイク・ロング(2008年、ドルフィンズ)、QBマッシュー・スタッフォード(2009年、ライオンズ)、QBアンドリュー・ラック(2012年、コルツ)、QBジャレッド・ゴフ(2016年、ラムズ)らがいる。

バスト(期待外れ)の代名詞のように名前が出されるジャマーカス・ラッセルがレイダースに入団したのは2007年のこと。サイズ、肩、運動能力どれをとっても超一流との評判で指名されたにもかかわらず、ついにNFLで花開くことはなかった。実働は3シーズンで通算7勝18敗、18タッチダウンに対して23回の被インターセプト。レイダーズファンにとっては今でもトラウマの選手の1人だ。

2000年にブラウンズが指名したDEコートニー・ブラウンもこれといった活躍を見せることもなくNFLを去った1人だ。

NFL入りして最初の数年は期待を裏切り、バストかと思われたがのちに遅まきながら開花した選手もいる。その最たる例はQBアレックス・スミス(2005年、49ers)だろう。入団から5年間は毎年、攻撃コーディネーターが替わり、そのたびに新しいオフェンスシステムでプレーしなければならなかった。しかし、2011年ごろから頭角を現し、持ち前の正確なショートパスで実力を発揮した。翌年にコリン・キャパニックにポジションを奪われてしまうが、チーフスに移籍してからはプレーオフの常連となった。現在はレッドスキンズで、昨季に負った脚の負傷から回復中だ。

2014年にテキサンズから指名を受けたDEジェイデボン・クラウニー、6年目の昨年に初のプロボウル選出を果たしたOTエリック・フィッシャー(2013年、チーフス)も「遅咲き」の部類に入るだろう。

故障に泣いたのはQBサム・ブラッドフォードだ(2010年、ラムズ)。肩や膝のケガが相次いだ。ただし、2015年のイーグルス、翌年のバイキングスでは活躍した。特にバイキングスではパス成功率71.6%でNFLの新記録(当時/その後、2017年と昨年でドリュー・ブリーズが更新)をマークした。

最近4年の1位指名選手であるQBジェイミス・ウィンストン(2015年、バッカニアーズ)、ゴフ、DEマイルズ・ギャレット(2017年、ブラウンズ)、QBベイカー・メイフィールド(昨年、ブラウンズ)はいずれもチームの先発に定着している――もっとも、ウィンストンは危ういが。各チームとも指名する対象を様々な角度から研究し、人格面も含めて総合的に判断することでバスト発生率を小さくしているのだろう。

QBはいつの時代も最もドラフトでの需要が高いポジションであるが、今ミレニアム最初の20年間は特にその傾向が顕著だった。次の20年にはどんなトレンドが生まれるのか。現在のスキームで重要度を増すタイトエンド(TE)やセーフティ(S)はQBやパスラッシャーを凌駕するようになるのか。ドラフトで指名されるポジションの変遷はそのままスキームの歴史につながるのだ。

【2019年4月24日入稿】

いけざわ・ひろし

生沢 浩
1965年 北海道生まれ
ジャパンタイムズ運動部部長。上智大学でフットボールのプレイ経験がある。『アメリカンフットボールマガジン』、『タッチダウンPro』などに寄稿。NHK衛星放送および日本テレビ系CSチャンネルG+のNFL解説者。著書に『よくわかるアメリカンフットボール』(実業之日本社刊)、訳書に『NFLに学べ フットボール強化書』(ベースボールマガジン社刊)がある。日本人初のPro Football Writers Association of America会員。