コラム

レイダースの新GMマイク・メイヨックは3つの1巡指名権をいかに使ったか

2019年05月04日(土) 23:33


オークランド・レイダースのマイク・メイヨック【Perry Knotts via AP】

ジョン・グルーデンHC(ヘッドコーチ)体制の2年目、新GM(ジェネラルマネジャー)マイク・メイヨックで初めて迎えるレイダースのドラフトはニーズ重視の堅調なものだった。レイダースといえば伝統的にオーナーのデービス一家の意向がチーム作りに強く反映されてきたが、今回は新任のメイヨックGMが主導権を握った。

前任のレジー・マッケンジーも2代目オーナーのマーク・デービス以上の人事権を持ってドラフトやフリーエージェント(FA)戦略を主導してきたが、最近の3、4年は新規獲得選手がことごとく期待はずれに終わるなどデービスの不興を買い、最終的にはグルーデンとの確執もあって解任された。その後の初ドラフトとあってデービスの介入の有無が注目されたが、メイヨックは独自の路線で3日間の「新人獲得戦争」を乗り切った。

メイヨックのカラーが如実に表れたのはやはり1巡目だろう。レイダースは昨年、開幕直前にディフェンシブエンド(DE)/アウトサイドラインバッカー(OLB)のカリル・マックをベアーズに、トレード期限直前にはワイドレシーバー(WR)アマリ・クーパーをカウボーイズに、それぞれ1巡指名権と交換で放出したため、今年はトップラウンドの指名権を3つ保持していた。21世紀に入ってから1巡目のピックを3つ保有するのは5例目だという。

この3つの1巡指名権をどのように行使するかについてはさまざまな憶測があった。デレック・カーに代わる新クオーターバック(QB)の指名やトレードダウンによる指名権増加、さらには大物選手のトレードによる獲得などいろんなシナリオが予想された。

一方でレイダースのニーズも明らかだった。まずはパスラッシュ強化である。NFLトップクラスであるマックを失ったレイダースは必然的にパスラッシュの威力も落ちた。レイダースディフェンスは対戦チームにとってはパスハッピーなオフェンスを展開する格好の餌食となった。

パスラッシュ力の低下は数字にも表れている。昨年のQBサック数はNFL最下位の13。しかも、ワースト2位タイのジャイアンツとペイトリオッツ(ともに30)の半分にも満たなかった。

最初の1巡指名権は全体4位で、メイヨックはこれでクレムゾン大学のDEクレリン・ファーレルを指名した。パスラッシュ強化のニーズに素直に応えた指名だ。ただし、コアなファンや専門家の間ではこの指名に疑問が投げかけられている。ケンタッキー大学のジョシュ・アレンやフロリダ州立大学のブライアン・バーンズのほうがパスラッシャーとしては評価が高かったし、今ドラフト最高のディフェンダーのひとりとも評されたニューストン大学のディフェンシブタックル(DT)エド・オリバーも獲得可能だったからだ。

多くの専門家はファーレルを1巡目の下位か2巡目の指名になると予想しており、レイダースのトップ指名には驚きの声があがった。メイヨックは最初の指名からNFLに大きなインパクトを与えたと言っていい。

彼のユニークな人選は24位ピックにも反映された。レイダースはこの指名権をアラバマ大学のランニングバック(RB)ジョシュ・ジェイコブスに行使した。これは2度目の引退をするとみられているマーショーン・リンチへの対策だ。ただし、ジェイコブスはパスキャッチでも貢献するマルチディメンションなタイプのバックで、パワーランナーのリンチとは対象的である。

また、アラバマ大学ではフルタイムスターターではなく、RBローテーションの一角を務めたに過ぎない。いわばユーティリティプレーヤーなのである。1巡でなくても指名できた可能性は高い。しかも、今年のドラフトはRBに人材が薄かったからFAで獲得する方針でいくべきだったかもしれない。

3つ目の1巡指名権ではミシシッピー州立大学のセーフティ(S)ジョナサン・エイブラハムを獲得した。クーパーの抜けた穴は前スティーラーズのWRアントニオ・ブラウンで補強済みだからディフェンス強化という意味では妥当な行使だっただろう。

2014年のマック指名(1巡目全体5位)は誰もが納得し、パスラッシュ強化に繋がる結果を残した。今年のドラフトを評価するには指名各選手の成長を見なければ答が出せないが、メイヨックが自身の眼力を信じて行った最初のドラフトは賛否が分かれそうだ。

いけざわ・ひろし

生沢 浩
1965年 北海道生まれ
ジャパンタイムズ運動部部長。上智大学でフットボールのプレイ経験がある。『アメリカンフットボールマガジン』、『タッチダウンPro』などに寄稿。NHK衛星放送および日本テレビ系CSチャンネルG+のNFL解説者。著書に『よくわかるアメリカンフットボール』(実業之日本社刊)、訳書に『NFLに学べ フットボール強化書』(ベースボールマガジン社刊)がある。日本人初のPro Football Writers Association of America会員。