コラム

ポスト・グロンクは誰の手に? ペイトリオッツのTE事情

2019年07月22日(月) 07:15

ニューイングランド・ペイトリオッツのロブ・グロンコウスキー【AP Photo/Charles Krupa】

スーパーボウル王者のペイトリオッツにとってサマーキャンプの最重要課題は引退したロブ・グロンコウスキーに代わる先発タイトエンド(TE)を発掘することだ。NFLを代表するTEだったグロンコウスキーの穴を埋めるのはただでさえ至難の業だが、ペイトリオッツはほとんど実績のない人材からクオーターバック(QB)トム・ブレイディのメインターゲットを育成しなければならない。

現在、ペイトリオッツに在籍するTEはベン・ワトソン、マット・ラコッセ、スティーブン・アンダーソン、ライアン・イゾー、アンドリュー・ベックの5人だ。このうち、NFL公式戦でパスキャッチの記録があるのは38歳のベテランで9年ぶりに古巣に復帰したワトソン、ジェッツやブロンコスに在籍したラコッセ、そして昨年テキサンズから移籍したアンダーソンだけだ。

そのアンダーソンとイゾー(2018年ドラフト7巡目指名)は昨年からペイトリオッツに在籍しているものの、パスキャッチの記録はない。このメンバーでグロンコウスキーに代わる人材を登用しようというのだからファンならずとも頭を抱えたくなってしまうだろう。

経験ではワトソンが最も頼りになるが、開幕から4試合の出場停止が決まっており、9月は戦力として計算できない。チームが期待を寄せるのはラコッセのようだ。198センチの身長があり、的は大きい。ただ、それでもNFLで実績らしいものと言えば昨季ブロンコスで15試合に出場して記録した24パスキャッチ、250ヤード、1タッチダウンだけだ。

不思議なことにペイトリオッツは今年のドラフトではTEを指名せず、フリーエージェント(FA)市場でも年俸の安い若手の獲得にとどまった。ファンが「グロンクが引退を撤回するのでは」と期待をするのも無理はないのだ。

確かにグロンコウスキーには現役復帰のうわさが絶えない。先日もブレイディの自主練習にレシーバーとして参加して話題を呼んだ。もっとも、ブレイディはキャンプ前の調整で、現役選手や引退した元選手を多く招待して練習を行うことが珍しくない。これだけをとってグロンコウスキーの現役復帰の根拠とすることはできない。

現在のNFLではTEの重要性がとても高い。キャッチ力とスピード、サイズが備わっていれば様々な場面でディフェンスとのミスマッチを生むことができるからだ。にもかかわらず、ペイトリオッツが有力なTE獲得に積極的ではなかったのはやはりブレイディの力量に信頼を置いているからだろう。

41歳のブレイディはパスのコントロールや威力、オープンレシーバーを見逃さない判断力に衰えが見えない。これだけの能力があれば実績のない選手でも潜在能力を十二分に引き出せるという信頼と自信がペイトリオッツにはあるのだろう。

ペイトリオッツはレギュラーシーズン16試合、17週をかけてじっくりとチームを作り上げる。毎年のように序盤とプレーオフ開始時には全く違うチームになっている。それができるノウハウがあるからこそ今はグロンコウスキーの穴埋めに焦りがないのだろう。

とはいえ、今後ペイトリオッツがFAやトレードでTEを補充しないとも限らない。そして、グロンコウスキーの復帰も可能性がゼロではない。これから始まるサマーキャンプでどのようにTEを補強するのかはひとつの大きなテーマである。

いけざわ・ひろし

生沢 浩
1965年 北海道生まれ
ジャパンタイムズ運動部部長。上智大学でフットボールのプレイ経験がある。『アメリカンフットボールマガジン』、『タッチダウンPro』などに寄稿。NHK衛星放送および日本テレビ系CSチャンネルG+のNFL解説者。著書に『よくわかるアメリカンフットボール』(実業之日本社刊)、訳書に『NFLに学べ フットボール強化書』(ベースボールマガジン社刊)がある。日本人初のPro Football Writers Association of America会員。