コラム

復活か終えんか、正念場を迎えるバッカニアーズのウィンストン

2019年08月05日(月) 07:02


タンパベイ・バッカニアーズのジェイミス・ウィンストン【AP Photo/Mark Zaleski】

いつの時代もNFLで最も重要なポジションはクオーターバック(QB)だと言われる。QBだけで勝てるリーグではないが、少なくとも有能なQBが存在しないチームが勝ち進むことは不可能だ。だからこそ、どのチームも能力あるQBを求めてやまない。それもまた時代を超えた真実だ。

つい1、2年前までフランチャイズQBと呼ぶに値する高い能力をもつ選手が不在で苦しむチームは片手に余るくらいあった。ところが、最近はドラフトで獲得した選手が定着する例が続いている。結果的に将来を任せるべきQBを確保しているチームがほとんどとなった。少なくとも今世紀に入ってから19年目でこれだけQBが安定している時代は過去になかっただろう。

その証拠に、今年のキャンプで真の正QB争いが展開するチームはほどんど皆無だと言っていい。強いて言うならジャイアンツでベテランのイーライ・マニングが今年のドラフト1巡6位指名のダニエル・ジョーンズの挑戦を受けるくらいか。

ただし、これまでの先発の座が必ずしも安定ではないQBもいる。バッカニアーズのジェイミス・ウィンストンだ。ウィンストンは2015年ドラフト全体1位指名を受けてバッカニアーズに入団した。当然、チームの看板選手となることが期待されていた。

ルーキーシーズンの開幕戦から先発デビューを果たすと、肩の強さを生かしてバッカニアーズオフェンスをけん引。ワイドレシーバー(WR)マイク・エバンスのような長身で能力の高いレシーバーに恵まれたこともあり、最初の2年は4,000ヤードパッシングを達成し、タッチダウンパス数も22回、28回と好調だった。

その反面で被インターセプトが多かったが、オフェンスの向上が最重要課題だった当時のバッカニアーズではパッシングアタックにつきもののリスクとして容認された部分があった。シーズンを重ねるごとに判断力やレシーバーとのコンビネーションが向上してパスの精度が上がると期待されたのだ。

しかし、チームが思い描くようにはウィンストンは成長しなかった。過去2年はパッシングのパフォーマンスが目に見えて落ちたのだ。昨季は開幕から3試合の出場停止処分を受ける間にライアン・フィッツパトリックが活躍し、先発の場を奪還したウィンストンが不振に陥るや否やフィッツパトリックがスターターに返り咲いたりもした。

結局、期待されたプレーオフ出場も果たせないままにダーク・カッターHC(ヘッドコーチ)は解雇され、引退していたブルース・エリアンズ前カーディナルスHCが新たな指揮官として就任している。

カッターが解任された直後はウィンストンの放出もうわさされた。昨年の夏にバッカニアーズが5年目のシーズン(今季)のオプション契約を選択したため今年いっぱいは契約下にあるものの、ドラフトやフリーエージェント(FA)で新たな人材を求めた方がいいとの考えもあったからだ。しかし、エリアンズは就任直後にウィンストンを先発QBに置くことを宣言し、再生させることに自信を見せたのだった。

エリアンズは過去にペイトン・マニング、ベン・ロスリスバーガー、アンドリュー・ラックを指導したことで知られる。パスを中心に得点力の高いオフェンスを構築するのが得意で、それはコルツ、スティーラーズ、カーディナルスで好結果をもたらしてきた。それだけにウィンストン再生の期待は高まる。

ただし、エリアンズのパスオフェンスは複雑だ。肩が強く、パスのコントロールがいいことが大前提となるだけでなく、レシーバーのパスコースやディフェンスの動きを正確に読むことが要求される。これまでそうしたパス攻撃で結果を残せなかったウィンストンがマスターできるかは不確定要素が多いのだ。

すでにフィッツパトリックも退団したバッカニアーズではウィンストンの存在を脅かすのはブレイン・ギャバートくらいしかいない。フィッツパトリックに比べれば恐れるに足らない。だが、そこにあぐらをかいていてはウィンストンの復活は望めないだろう。今季いいプレーができなければ来年は確実にチームを追われるだろうし、そうなれば先発QBが充実している今のNFLでは職そのものが失われる可能性がある。

ウィンストンはまさに崖っぷちにいるのだ。1位指名に見合うQBとして残るか、バスト(期待外れ)で終わるか。進退をかけたシーズンが始まる。

いけざわ・ひろし

生沢 浩
1965年 北海道生まれ
ジャパンタイムズ運動部部長。上智大学でフットボールのプレイ経験がある。『アメリカンフットボールマガジン』、『タッチダウンPro』などに寄稿。NHK衛星放送および日本テレビ系CSチャンネルG+のNFL解説者。著書に『よくわかるアメリカンフットボール』(実業之日本社刊)、訳書に『NFLに学べ フットボール強化書』(ベースボールマガジン社刊)がある。日本人初のPro Football Writers Association of America会員。