コラム

コルツに暗雲、ウオームアップに登場も復帰のめどが立たないQBラック

2019年08月19日(月) 06:11


インディアナポリス・コルツのアンドリュー・ラックとクリーブランド・ブラウンズのドリュー・スタントン【AP Photo/AJ Mast】

昨季4年ぶりにプレーオフの舞台に復帰したコルツが大きな不安に包まれている。クオーターバック(QB)アンドリュー・ラックの左あしの故障が一向に回復の兆しを見せず、プレシーズの残りも欠場が濃厚となったからだ。

昨年のコルツの復活は肩の故障が癒えて戦列復帰したラックが大きな理由の一つであることは言うまでもない。そのラックが出遅れ必至となったことでコルツは対策が急務となった。

ラックは春から左脚のふくらはぎ部分に痛みを訴え、オフシーズンプログラムも全休した。当初はラックもコルツも楽観していたところがあった。休息と緩やかなリハビリでキャンプまでには完治するものと考えていた。

ところが、キャンプインしても痛みはひかず、精密検査の結果、ふくらはぎだけでなく右足首前部にも故障箇所があることが発覚した。

コルツは単発で起きた故障ではなく、長年の蓄積によるものだと判断している。手術が必要なものではなく、やはり休養で回復を待つ。ただし、これといった有効な治療法が分かっているわけでもなく、レギュラーシーズン開幕に間に合うかどうかは不透明な状態だ。

コルツのオフェンスシステムは昨年と変わらないから、その意味ではラックのスキーム把握には心配はいらない。しかし、このオフにはラックのパスの幅を広げるべく前パンサーズのワイドレシーバー(WR)デビン・ファンチェスを獲得した。ファンチェスはT.Y.ヒルトンに続く第2レシーバーという重要な位置づけだ。むしろ、フランク・ライクHC(ヘッドコーチ)の構想のなかにはヒルトンとファンチェスをダブルエースとしてパスオフェンスの核にするプランがあった。

昨年のコルツのオフェンスライン(OL)は新人レフトガード(LG)クェントン・ネルソンの台頭もあって劇的に改善され、それはランニングバック(RB)マーロン・マックを軸とするラン攻撃の向上にも反映された。今年はそれに加えてさらにパスオフェンスを強化することで昨年以上の結果を残そうという方針の下でオフェンスが作られてきた。

しかし、肝心のラックがフィールドに立てないままではファンチェスとのコンビネーションは確立できない。パンサーズにおけるファンチェスの立場はやはり2番手もしくは3番手のレシーバーだった。それがポケットパサーのラックとの組み合わせで大きく化けるだろうという算段がコルツにはあった。現在のところそれは白紙に戻さざるを得ない。

ラックが戦列を離れている間は2番手のジャコビー・ブリセットがファーストオフェンスのQBを務める。ブリセットは2016年にドラフト3巡指名でペイトリオッツに入団。トム・ブレイディが4試合の出場停止処分を受けるなかで2試合に先発した。その時の活躍を認めたコルツがトレードで獲得し、2017年には故障のラックに代わって15試合に先発出場した。

その年は13タッチダウンで7つのインターセプト、パサーレイティングは81.7でNFLのQBの平均的水準を下回るものだった。バックアップとしては有能だが、1シーズンをスターターとして任せるほどの実力はまだない。ラックに代わってコルツをプレーオフに導くとは考えにくい。

厄介なのはラックの回復見込みが全く立たないことだ。前半戦が絶望ならラックを故障者リストに入れてその分のロースター枠をほかのポジションに使うことができる。しかし、そこまで長期欠場が確実とも言えない以上はこの方策はとれない。1日でも早い回復を願ってラックをロースターに登録しておくしかないのだ。

それでも、プレシーズン第2週に行われたブラウンズとの試合前にはウオームアップに姿を見せ、動き方を見る限りは順調に回復しているようにも見えた。

昨年はディビジョナルプレーオフに進出し、今年はさらなる上を目指すはずのコルツだったが、ラックという司令塔に思わぬブレーキがかかっていることに変わりはない。これをどう克服するのか。コルツには大きな試練だ。

いけざわ・ひろし

生沢 浩
1965年 北海道生まれ
ジャパンタイムズ運動部部長。上智大学でフットボールのプレイ経験がある。『アメリカンフットボールマガジン』、『タッチダウンPro』などに寄稿。NHK衛星放送および日本テレビ系CSチャンネルG+のNFL解説者。著書に『よくわかるアメリカンフットボール』(実業之日本社刊)、訳書に『NFLに学べ フットボール強化書』(ベースボールマガジン社刊)がある。日本人初のPro Football Writers Association of America会員。