コラム

ロンドンでのフランチャイズ誕生説、その可能性は?

2019年11月11日(月) 07:24


ロンドンのトゥイッケナム・スタジアム【Aaron M. Sprecher via AP】

シーズン第9週に行われたジャガーズ対テキサンズの試合をもって今季のロンドンゲーム4試合がすべて終了した。こうしたタイミングだからなのか、やはりNFLチームのロンドンへの移転のうわさが出てきた。

アメリカやイギリスを中心に展開するウェブマガジン『アスレティック』はNFLとチャージャーズが将来的にロンドンに移転することを考慮していると報じた。チャージャーズのオーナーであるディーン・スパノス氏は即座にこの報道を否定する声明を発表したが、NFLチームがロンドンに誕生する可能性がある印象を深く植え付ける結果となった。

アスレティックの報道によれば13年連続となったNFLのロンドンゲームはチケットやマーチャンダイジングの売り上げが右肩上がりで、今年の4試合の観客動員数は延べ28万6,000人に達したという。ロンドンにNFLチームを誕生させる土壌は整っているといえる。

NFLもロンドンにフランチャイズを置くチームが誕生することを将来的な構想として抱いている。ただし、その「将来」がいつ訪れるかはわからず、ロンドンのチームが新興球団となるか既存のチームの移転でまかなうのかも未定だ。

NFLは現行32チームのシステムが運営上もっとも安定していると考えており、チーム数増には消極的だ。したがってロンドンでチームが誕生するなら移転の可能性が高いのだが、当地での試合開催数の多いジャガーズがその候補とうわさされてきた。今回、チャージャーズの名前が出た理由をアスレティックは、サンディエゴからロサンゼルスに移転はしたもののラムズとの競合でファン獲得に失敗したからと報じている。

ロサンゼルスで現在建設中の新スタジアムをラムズとチャージャーズが共用し、巨大なマーケットの恩恵を受けやすいことを考えるとアスレティックの根拠はやや説得力に乏しい。

NFLがロンドンを魅力的なマーケットととらえているのは事実だ。しかし、実際にチームをロンドンに置くとなると多くの課題が見えてくる。

最大の問題は何といってもロンドンとアメリカの時差と距離だ。ロンドンとニューヨーク(東海岸標準時)の時差は5時間でロンドンの方が早い。アメリカ国内でも東海岸と西海岸では3時間の時差があるからさほど大きくはないと思うかもしれないが、ロンドンにフランチャイズを置くチームは年間4試合を5時間ないし8時間の時差の中で戦わなければならないのだ。しかも、そのたびに片道8時間以上のフライトに耐える必要がある。

もっとも、この時差と距離はロンドンのチームにとっては大きな地の利となる。仮にカンファレンスの第1シードとなってプレーオフですべて地元開催の権利が得られたら、そのホームフィールドアドバンテージの大きさは計り知れない。

チームの所属する選手の負担も大きい。少なくともシーズン中はイギリスでの在住が不可欠だろう。家族と離れて暮らすことにもなり、精神的な負担が懸念される。

そして、こうしたマイナス面が指摘されると選手獲得にも支障が出る。フリーエージェント(FA)やトレードで選手を獲得しようにも、上記の理由で移籍を拒むケースが出てきてもおかしくないからだ。ドラフトで指名された選手ですら入団をためらうかもしれない。

シーズン中の一定期間だけフランチャイズをロンドンに置くというアイディアもあるようだが、これではスケジュールの不公平が生まれる。現行スケジュールも少なからず不公平は起きているのだが、例えば同じホームアンドアウエーの条件で戦うべき地区内対戦でロンドン遠征があるチームとないチームが現れてはフェアではないだろう。

ロンドンでのNFLチーム誕生は夢のある話なのだが、実際にはまだまだ難しい問題が多く、実現には時間がかかるとみるべきだろう。

いけざわ・ひろし

生沢 浩
1965年 北海道生まれ
ジャパンタイムズ運動部部長。上智大学でフットボールのプレイ経験がある。『アメリカンフットボールマガジン』、『タッチダウンPro』などに寄稿。NHK衛星放送および日本テレビ系CSチャンネルG+のNFL解説者。著書に『よくわかるアメリカンフットボール』(実業之日本社刊)、訳書に『NFLに学べ フットボール強化書』(ベースボールマガジン社刊)がある。日本人初のPro Football Writers Association of America会員。