コラム

波乱は続くのか、プレーオフはディビジョナルラウンドへ

2020年01月10日(金) 07:28


ボルティモア・レイブンズのラマー・ジャクソン【AP Photo/Gail Burton】

プレーオフ1回戦となったワイルドカードでは4試合中3試合で下位シードのチームが勝ちあがるという大きな波乱があった。カンファレンスの上位シード2チームが登場するディビジョナルラウンドの展開ははたしてどうなるのか。

近年のプレーオフでは第1シードもしくは第2シードのチームがそのままスーパーボウルに進出するケースが多い。上位シードの2チームがディビジョナルラウンドでアップセットされる場合は、試合間隔が空いてしまうことが大きな原因だった。プレーオフ初戦を免除される上位シードの2チームはレギュラーシーズン最終週に主力選手を休ませる傾向にあり、そうなると3週間ぶりの真剣勝負に挑むことになる。試合勘が鈍くなったことで、勝ち上がってきたチームに足をすくわれる形となるのだが、最近ではその対策をしっかりとして選手に緊張感を保たせることに成功するチームが増えてきた。そのために上位シードのチームが順当に勝つようになったと考えられる。

ワイルドカードではタイタンズやバイキングスなど強力なランゲームを擁するチームの活躍が目立った。その傾向はディビジョナルラウンドでも続くのか、それとも新たなトレンドが生まれるのか。4試合の見どころをまとめてみた。

バイキングス@49ers
セインツを破って勝ち上がってきたバイキングスはディビジョナルラウンド出場チームの中で最も勢いがあるといって過言ではない。攻守にバランスがとれ、スペシャルチームも安定している。何よりも戦力のピークがベストタイミングで訪れている。

バイキングスの最大の武器はディフェンスだ。エバーソン・グリフィンとダニエル・ハンターのエッジコンビはクオーターバック(QB)サックを量産する。彼らがインサイド(ディフェンシブタックル/DT)ポジションに入ることもあり、パスラッシュは破壊力を持つ。クリックリリースが得意のドリュー・ブリーズがほとんど何もできなかったのだから、49ersのジミー・ガロポロにとっては要注意だ。

対する49ersも新人ディフェンシブエンド(DE)ニック・ボサを中心とするパスラッシュが強力だ。ワイドレシーバー(WR)ステフォン・ディグスやアダム・シーレン、タイトエンド(TE)カイル・ルドルフに投げ分けたいQBカーク・カズンズをオフェンシブライン(OL)がいかにプロテクトできるかが鍵を握る。

オフェンスはWRエマニュエル・サンダースが絶好調で、パスキャッチのみならずエンドランやジェットスイープでも威力を発揮する。

49ersに関して唯一懸念されるのはプレーオフの経験値が少ないことだ。8チームの中で最もプレーオフから遠ざかっており、カイル・シャナハンHC(ヘッドコーチ)も指揮者として迎えるポストシーズンゲームはこれが初めてだ。勢いに乗るバイキングスが先制する展開になれば第1シードがあっさりと消える展開が起こらないとも限らない。

タイタンズ@レイブンズ
これでもかというくらいにランニングバック(RB)デリック・ヘンリーのラン攻撃でペイトリオッツを粉砕したタイタンズはレイブンズ相手にも基本的なゲームプランは変えないだろう。レイブンズも1試合平均200ヤードを超えるラッシングが武器で、壮絶な地上戦が予想される。

そうなった場合、パスでも強力なオフェンスを展開できるQBラマー・ジャクソンに分があるだろう。これまでのNFLではジャクソンを止められるチームはいなかった。タイタンズがどのようなジャクソン対策を立ててくるかが注目だ。

テキサンズ@チーフス
ともに得点力の高いオフェンスを持つが、点の取り合いになればチーフスに一日の長がある。そうさせないためにテキサンズは故障から復帰したDEのJ.J.ワットや過去のポストシーズンで7サックを記録しているラインバッカー(LB)ホイットニー・マーシラスがチーフスQBパトリック・マホームズにプレッシャーをかけ続けることが必要だ。

チーフスのディフェンスはターンオーバーを起こすことが得意だからテキサンズのQBデショーン・ワトソンはレイティング121.2をマークしたワイルドカードのビルズ戦のように精度の高いパッシングを展開したい。

レギュラーシーズン中の対戦ではテキサンズが勝っている。

シーホークス@パッカーズ
数年前ならシーホークスディフェンス対パッカーズオフェンスのマッチアップが期待された試合だが、今季はむしろ逆でシーホークスのオフェンスがいかにパッカーズのディフェンスを攻略するかにかかっている。

パッカーズディフェンスはザダリアス・スミスの13.5サックに表れているように非常にアグレッシブなディフェンスを持つ。シーホークスのQBラッセル・ウィルソンにとってはかつての自分たちと戦っているようなものだろう。

現在のシーホークスは主力の故障に苦しんでいる。とくにRB陣は明らかにレギュラーシーズンよりパワーダウンしている。4年ぶりにチームに復帰したマーショーン・リンチはやはりかつてのビーストモードには程遠く、強烈な突進力は見る影もない。その分だけウィルソンのパッシングに負担がかかる。

一方のパッカーズもQBアーロン・ロジャースのパスが完ぺきとは言い難い。レギュラーシーズン終盤はロングパスの失敗が目立ち、こちらも全盛期のころのような肩の強さは鳴りを潜める。

戦力が十分でないため辛抱強くチャンスを待つ試合展開になりそうだ。ともにプレーオフ経験は豊富だ。試合巧者の両チームがどこで勝負をかけてくるのか。その潮目に注目したい。

いけざわ・ひろし

生沢 浩
1965年 北海道生まれ
ジャパンタイムズ運動部部長。上智大学でフットボールのプレイ経験がある。『アメリカンフットボールマガジン』、『タッチダウンPro』などに寄稿。NHK衛星放送および日本テレビ系CSチャンネルG+のNFL解説者。著書に『よくわかるアメリカンフットボール』(実業之日本社刊)、訳書に『NFLに学べ フットボール強化書』(ベースボールマガジン社刊)がある。日本人初のPro Football Writers Association of America会員。