コラム

QB天国から一転、予断を許さないセインツ

2020年02月16日(日) 07:14


ニューオーリンズ・セインツのドリュー・ブリーズ【AP Photo/Bill Feig】

セインツがプレーオフ初戦で敗退してから早くも1カ月が過ぎた。エースクオーターバック(QB)ドリュー・ブリーズはプロボウルに出場したが、今後の去就については「考える時間が欲しい」と言ったまま現在に至っても態度を明らかにしていない。

セインツとの2年契約は3月で切れることになっているが、ブリーズが現役続行の意思を表明すれば契約が延長されることは間違いない。ブリーズも「このままプレーし続けるのであればセインツ以外にない」と14年間過ごしたチームへの愛着と忠誠心を述べている。

1月に41歳の誕生日を迎えたブリーズだがパサーとしての能力は依然として高い。それでも彼の頭に引退の二文字がよぎるのは家族との時間を大切にしたいからだ。ブリーズには5歳から10歳までの4人の子供がいる。彼らとともに過ごす時間を多く持ちたいというのは自然な気持ちだろう。

ブリーズがユニフォームを脱ぐ決意を固めた場合、セインツは深刻なQB不足に陥る可能性がある。なぜなら、バックアップのテディ・ブリッジウォーターとテイソム・ヒルもそれぞれフリーエージェント(FA)となるからだ。ブリッジウォーターが自由に交渉のできる完全FAで、ヒルはFA契約に補償条件が付帯する条件付きFAという違いはあるが、今季あれほどQBに人材が豊富だったセインツが一気に人材難にあえぐかもしれないのだ。

ヒルは先ごろ、AP通信とのインタビューの中で先発QBへのこだわりを強調し、「セインツにその気(ヒルを先発QBとするプラン)がないのであれば移籍も辞さない」と表明した。

ヒルはランニングバック(RB)やタイトエンド(TE)、ワイルドキャットQBなど、いろいろな起用をされるが、今季はノーマルなQBからブリーズ張りの綺麗な放物線を描くロングパスをいくつも成功させた。これが彼自身に先発でもやっていけるという自信を植え付けたのだろう。

ただし、セインツをはじめほかのチームがヒルをフルタイムQBとして評価するかどうかは別の問題だ。ブリーズがあってこそヒルが生きるとの見方も依然として強くあり、ヒルの望む先発ポジションが打診されるかは不透明だ。

一方でブリッジウォーターはほかのチームからの誘いがありそうだ。今季はブリーズの欠場の間に5試合に先発し、そのすべてでチームに勝利を呼び込んだ。彼の活躍がなければセインツが13勝3敗という好成績を残すことはなかった。懸念されたひざの故障も影響は見られず、完全復調したとみていい。

ブリーズが現役続行を表明すればヒルをバックアップとして残し、ブリーズ引退後の先発候補とするシナリオは考えられる。この場合はブリッジウォーターはFAで離脱することになるだろう。

ブリーズ引退の場合はブリッジウォーターを先発候補として再契約し、ヒルも慰留してポジション争いの機会を約束するか。この場合は2人のQBに高額のサラリーキャップ反映額の危険が生じる。条件付きのため、移籍がやや難しいヒルを残し、FAでリーズナブルな契約で獲得可能なQBを模索するという考えもあるかもしれない。

いずれの場合もブリーズの決断次第なのだが、たとえ現役を続行するにしても彼がフィールドを去る日は早晩やってくる。そのための備えをセインツは今からしておかなければならない。

いけざわ・ひろし

生沢 浩
1965年 北海道生まれ
ジャパンタイムズ運動部部長。上智大学でフットボールのプレイ経験がある。『アメリカンフットボールマガジン』、『タッチダウンPro』などに寄稿。NHK衛星放送および日本テレビ系CSチャンネルG+のNFL解説者。著書に『よくわかるアメリカンフットボール』(実業之日本社刊)、訳書に『NFLに学べ フットボール強化書』(ベースボールマガジン社刊)がある。日本人初のPro Football Writers Association of America会員。