昨季の好調はいずこ、不振にあえぐパンサーズ
2016年10月13日(木) 15:24昨季15勝1敗という圧倒的な強さを誇り、チーム史上2度目となるスーパーボウル出場を果たしたパンサーズがまさかの1勝4敗スタートにあえいでいる。
第5週マンデーナイトではバッカニアーズに敗れて3連敗。NFC南地区で首位ファルコンズにすでに3ゲーム差をつけられており、プレーオフが遠ざかりつつある。
わずか1年での転落は何が原因なのだろうか。
複数のメディア報道を見ると続出する故障者とミスを理由に挙げている。第5週に脳震盪(しんとう)で欠場したQBキャム・ニュートンを始め、RBジョナサン・スチュワート、LTマイケル・オアー、DTバーノン・バトラー、CBジェームズ・ブラッドベリーらが戦列離脱中だ。
ミスという点ではターンオーバーのうちギブアウェーの多いことが指摘される。今季これまでで14回で、これはリーグ最多。ちなみに昨年はシーズンを通して19回だった。
昨年から弱点とされていたディフェンスバック陣も不振だ。第4週のファルコンズ戦ではQBマット・ライアンに503ヤードパッシングを許し、WRフリオ・ジョーンズは一人で300ヤードを稼いだ。
このあおりを受けて先発CBだったベネ・ベンウィケレは解雇。新人のダリル・ウォーリーやザック・サンチェスを起用せざるを得ない状況だ。
確かにこうした人材や度重なるミスがネガティブな要因になっていることは間違いない。しかし、それだけではない。ここぞという場面でプレーメークする力が見られない。これこそが昨年のパンサーズの大躍進を支えた強さだった。
1試合で各チームがそれぞれ10回のオフェンス機会があったとする。すべてのポゼッションでタッチダウン(エキストラポイントは1点で考える)すると仮定すれば試合は70対70の引き分けに終わる。
ディフェンスが奮起して相手のオフェンスドライブを1回止めれば70対63となって7点の差が生まれる。フィールドゴールで抑えても4点差だ。ここにターンオーバーという要素が加わるとこの点差はさらに広がる可能性がある。
試合の流れを変えるビッグプレーを大事な場面で発揮する力のあるチームはこうした展開を多く作り、試合を有利に運ぶ。ターンオーバーを生み出すディフェンスとプレーメーカーのニュートンが活躍した昨年パンサーズにはこの強みがあった。
昨年のパンサーズはNFLでもトップクラスのタレント集団だった。ニュートンを始め、LBルーク・キークリー、DTカワン・ショート、CBジョシュ・ノーマン、LBトーマス・デービスといったプレーメーカーがここぞという時にビッグプレーを決めたものだ。
リーグ最多の39回のテイクアウェイでオフェンスにチャンスをもたらし、それをニュートンがタッチダウンに結びつける。これがパンサーズの勝ちパターンだった。
今季は上記の選手のうちノーマンを除く選手は残留し、さらにWRケルビン・ベンジャミンも膝の故障から復帰した。タレント性でいえば昨季のチームからさほど大きな落差はない。
しかし、一気にモメンタムをチームにもたらすようなビッグプレーに欠ける。個々のタレントが効果的に発揮されていないのだ。TEグレッグ・オルセンは1試合平均103.2ヤードレシーブで、TEではダントツの1位(レシーバー全体でも4位)だ。キャッチによるファーストダウン更新は24回でこれもTEではトップ。チームのエースレシーバーがこれだけの活躍をしているにもかかわらず今季のパンサーズの得点は1試合平均24.6点(ディフェンスやスペシャルチームによる得点も含む)。リーグ11で悪くはないのだが、昨年の31.25からはタッチダウンひとつ分以上の差がある。単純にこの得点差を今季の5試合に加点すると勝敗は3勝2敗だ。
DEコニー・イーリーとチャールズ・ジョンソンが今季まだサックを記録していないのも潜在能力が発揮されていない一例だ。
昨年のパンサーズも決してミスの少ないチームではなかった。しかし、それを凌駕するだけのチャンスにおける強さがあった。ポテンシャルそのものはそれほど大きくは変わっていない。何かのきっかけで大きく改善される可能性はある。ただし、すでにシーズンも約3分の1を消化した今、パンサーズにはあまり時間が残されていない。
いけざわ・ひろし
- 生沢 浩
- 1965年 北海道生まれ
ジャパンタイムズ運動部部長。上智大学でフットボールのプレイ経験がある。『アメリカンフットボールマガジン』、『タッチダウンPro』などに寄稿。NHK衛星放送および日本テレビ系CSチャンネルG+のNFL解説者。著書に『よくわかるアメリカンフットボール』(実業之日本社刊)、訳書に『NFLに学べ フットボール強化書』(ベースボールマガジン社刊)がある。日本人初のPro Football Writers Association of America会員。