コラム

カウボーイズ新旧QB、究極の選択

2016年10月20日(木) 12:09


ダラス・カウボーイズのダック・プレスコットとトニー・ロモ【James D Smith via AP】

絶好調の新人か、百戦錬磨のベテランか。

カウボーイズに大きな決断の時がくる。第2週から5連勝中と波に乗るカウボーイズはバイウイークを迎えた。この間にクオーターバック(QB)トニー・ロモが復帰できる見込みだ。

ロモはプレシーズンゲームで背中を痛めて戦列を離れ、新人のダック・プレスコットが開幕先発を務めた。初戦こそジャイアンツに惜敗したものの、同じく新人のRBエゼキエル・エリオットの活躍もあってチームは連勝。気が付けばバイキングスと並ぶNFC最多の5勝を挙げている(第6週に試合のなかったバイキングスは依然として5戦全勝)。

プレスコットの活躍は今季前半の最も大きなニュースの1つだ。高い運動能力を持ち、脚力を生かしたプレイで距離を稼ぐ。パスも正確で、第6週のパッカーズ戦まで被インターセプトはなかった。NFLデビューから176回のパス試投でピックオフがなかったことになり、トム・ブレイディの162回を抜くNFL新記録である。

ロモの復帰という、本来なら待ち望んでいたはずのことが今ではかえって悩ましい。プレスコットを起用し続けるべきか、ロモに託すべきか。

ブラウンズや49ersのようにQBの不振に苦しむチームに比べるといかにも贅沢な悩みなのだが、カンファレンス制覇も夢ではない現状では慎重な決断をしなければいけない。

パッカーズ戦後に今後のQB起用について尋ねられたオーナー兼ジェネラルマネジャー(GM)のジェリー・ジョーンズは「今日はグリーンベイでパッカーズに勝ったという事実以外、何も言うことはない」と明言を避けた。

野球で言う、「勝っている時は打順を変えるな」のたとえに従うならプレスコットを起用した方がチームの勢いは続くだろう。オフェンシブライン(OL)も大きく入れ替え、若手中心の布陣で戦う現在のカウボーイズは世代交代の成功例でもある。

2001年のペイトリオッツは第3週にドリュー・ブレッドソーが故障して、翌週からブレイディが先発を務めた。シーズン後半にブレッドソーの故障は完治するが、ビル・ベリチックはチームに勝ちを呼んだブレイディを起用し続けた。そのシーズンにペイトリオッツはスーパーボウル初制覇を果たし、現在まで続く黄金時代の幕を開けたのだった。

当時のベリチックの決断は非情とも評された。しかし、結果的にペイトリオッツは稀代のQBを世に出すことに成功した。

非情という意味ではジョーンズも引けを取らない。彼がチームのオーナーシップを獲得した1989年に最初に手掛けたのは名将トム・ランドリーの解任だった。ランドリーといえばカウボーイズの一時代を築いた功労者で、ダラスのみならず全米で尊敬を集める存在だ。それをあっさりと切り、アーカンソー大学時代のチームメートだったジミー・ジョンソンンを新ヘッドコーチ(HC)に迎えた。

ジョンソンはその後1992年-1993年シーズンでスーパーボウル連覇を果たし、カウボーイズはダイナスティ時代を迎えた。しかし、次第にジョーンズとの間で方向性の違いが生じ、2度目のスーパーボウル優勝の直後に解任された。

ロモはジョーンズのお気に入りのQBだが、彼がランドリーやジョンソンのような扱いを受けない保証はない。

もっとも、実際にはロモが先発の座を与えられる可能性が高いだろう。バイウイークのあとカウボーイズはイーグルス、スティーラーズ、レイブンズ、バイキングスらとの対戦が控える。いずれも複雑なディフェンスを使うチームばかりだ。こうしたチームとの対戦にはやはり数多くのディフェンスと対戦してきたロモが有利だ。

また、現在捻挫で欠場中のWRデズ・ブライアントとのコンビネーションもロモの方がいい。プレスコットはアウトサイドレシーバーへのロングパスはそれほど得意としておらず、その意味ではブライアントの持ち味を最大限に引き出すとは言い難い。この点もロモに一日の長がある。

今のカウボーイズオフェンスはあくまでもロモがQBであることを前提としてデザインされたものだ。そのロモが戦列に戻る以上、彼が先発QBを務めるのが理にかなっている。

むしろ課題はロモ復帰後にあるというべきだろう。ロモが先発で勝ち続ければ何の問題もない。しかし、3試合もしくは5試合というスパンで見たときに成績が負け越した場合はどうだろうか。

満を持してロモを投入して負けるようなことがあれば、カウボーイズは失速し、バイキングスやファルコンズ、シーホークスのみならず地区ライバルのレッドスキンズの後塵を拝することにならないとも限らない。QB交代論が巻き起こることは想像に難くない。そして、その時期はカウボーイズが地区優勝を左右するレッドスキンズやジャイアンツとの対戦を控えている時期でもある。

本当の難しい決断はここにある。その決断を下す必要がないほどチームが勝ち進めば杞憂に終わるのだが、そうではなかった場合、カウボーイズの抱えるQB問題は将来のチーム構想に影響を与える重大なものとなりえるのだ。

いけざわ・ひろし

生沢 浩
1965年 北海道生まれ
ジャパンタイムズ運動部部長。上智大学でフットボールのプレイ経験がある。『アメリカンフットボールマガジン』、『タッチダウンPro』などに寄稿。NHK衛星放送および日本テレビ系CSチャンネルG+のNFL解説者。著書に『よくわかるアメリカンフットボール』(実業之日本社刊)、訳書に『NFLに学べ フットボール強化書』(ベースボールマガジン社刊)がある。日本人初のPro Football Writers Association of America会員。